ストックホルム条約 その5(人間環境宣言)

ストックホルム条約の3つめの成果は,

人間環境宣言(ストックホルム宣言)

です。

人間環境宣言は,リオ宣言と同じく,拘束力はないものの,重要なソフトローです。
国内法及び国際法の両者の発展において大きな影響を与えました。
実際,その言葉自体は使用していないものの,人間環境宣言は,後に広まった持続可能な発展(Sustainable Development)という概念の基礎を固めることに寄与しました。
人間環境宣言は,環境と発展を統合すること,汚染を減少ないし消失させること,及び,再生・非再生資源の使用を管理することの重要性を強調しました。
健康環境を人権の中に盛り込んだり,発展計画を非常に重視したりしている点で,人間環境宣言は,特に,20年後に出てきたリオ宣言と比べると,先見性のある定めです。

人間環境宣言は,環境保護の責任を原則的に国家や地方自治体に負わせましたが,それにもかかわらず,前文は
国際協力そして国際法が重要な役割を果たす以下の3つの分野を明確にしました。
発展途上国へのサポート
②国際協力
③国際機関の活動

原則22と原則24は,国際間協力の重要な役割についても強調しました。

原則22は,各国に,自国の管轄権内または支配下の活動が,自国の管轄権の外にある地域に及ぼした汚染その他の環境上の損害の被害者への責任及び補償に関する国際法をさらに発展せしめるよう協力することを求めました。
原則22は,20年後のリオ宣言にもほとんどそのまま使われています。

原則24は,各国に,国際協力を通じて,より環境保護に努力するよう促しています。
「・・・環境に対する悪影響を予防し,除去し,減少させ,効果的に規制するために不可欠である」ということが規定されています。
原則24は,国際環境保護は,全ての国が平等に行い,全ての国が参加して行うことが必要であると言っています。
環境問題に取り組む際の国際協力の重要性を暗に示しています。

おそらく,ストックホルム宣言で将来の国際環境法の発展のために最も重要なのは,原則1と原則21です。

原則1は,環境に関する権利と義務を定めています。曰く,
「人は,尊厳と福祉を保つに足る環境で,自由,平等及び十分な生活水準を享受する基本的権利を有するとともに,現在及び将来の世代のため環境を保護し改善する厳粛な責任を負う。これに関し,アパルトヘイト(人種隔離政策),人種差別,差別的取扱い,植民地主義その他の圧制及び外国支配を促進し,又は恒久化する政策は非難され,排除されなければならない。」
この原則は,健康環境に対する明確な権利を宣言しているわけでも,国際法において未だそのような権利が認識されていたわけでもありませんでした。それにもかかわらず,ストックホルム宣言は,各国の憲法における環境に関する人権の発展に重要な影響を与えてきました。

原則21は,環境に対する国の権利と責任を定めています。曰く,
「各国は,国連憲章及び国際法の原則に従い,自国の資源をその環境政策に基づいて開発する主権を有する。各国はまた,自国の管轄権内又は支配下の活動が他国の環境又は国家の管轄権の範囲を越えた地域の環境に損害を与えないよう措置する責任を負う。」
この原則は,リオ宣言の原則2において,ほとんど全く同じように繰り返されているのですが,ストックホルムでは,この原則に関して激論が交わされました。全ての国際環境弁護士に知られているように,原則21は,今日,国際環境慣習法の重要な明文化として残っています。